木曜日, 3月 23, 2006

プーランク: 人間の声 2

・・・・
(取り乱して)
まあ、駄目よ、あなた・・
絶対に私を見ないで・・
怖いかって?
いいえ、怖くはないけれど・・
もっと酷いわ
つまり、独りで眠れなくなってしまったの。
ええ、そうね。 わかった、約束するわ。
本当よ。 優しいのね。
(とても荒々しく、とても自由に)
知らないわ!・・・
鏡を見ないようにしているのよ。
洗面の灯りを消したままにしているの。
(苛立って)
昨日、鏡の中の私は、
老婆のようだった・・・
いいえ!・・白髪の老婆よ・・
皺だらけの・・・
優しいわね、あなた、でも・・・・
本当に驚くほどよ、何よりも酷いの・・・
芸術家向きね。
(自由に、優しく、静かに)
私、あなたがこう言ってくれるのが好きだった。
「こっちを向いて! 小さな怒りんぼさん!」
(微笑もうとしながら)
ええ、ムッシュー、嬉しかったのよ。
おばかさんね・・
(急に不安気に)
幸いあなたはぶきっちょで、
私を愛している・・
もし愛していなくて、
器用なだけだったら、
この電話は恐ろしい武器になるでしょう・・
痕跡を残さない武器に・・
音も立てない・・
私が意地悪だって?・・・
もしもし! もしもし、あなた!
(不安の極みで、荒っぽく)
もしもし、マドモアゼル、もしもし、
切れてしまったの・・
(受話器を置く)
もしもし、あなた? いいえ、マドモアゼル、
切れてしまって・・
(取り乱して)
知らないわ!・・・・ つまり
いいえ、待って・・
オトイユ04コンマ7です。
お話中?
もしもし、マドモアゼル? 彼からかしら?
そう・・
(電話を切る)
(電話が鳴る)
もしもし!オトイユ04コンマ7ですか?
もしもし? あなたね? ジョゼフ・・
(息切れして)
私よ。
ムッシューとお話中に、切れてしまったの・・
いらっしゃらない? ・・・・そう・・・
そう・・・ 今夜は戻らない・・・
(平静を装って)
そうだったわ・・・ 私、バカね。
ムッシューはレストランから電話をくれたんだったわ。
切れてしまったので、うっかりかけ直したのよ。
ごめんなさい、ジョゼフ・・ ありがとう。
さようなら、ジョゼフ。
・・・・
(電話が鳴る)
もしもし! ああ! あなたね!・・・
(静かに、陰鬱に)
切れてしまったから・・・
いいえ、違うの、待っていたのよ。
電話が鳴って・・ 出たけれど、 誰も出なくて。
多分・・ もちろん・・
眠たいのね? かけ直してくれて有難う。
良かったわ・・・ いいえ、ここに居るわよ。
何? ごめんなさい。 馬鹿げてるわね。
同じことよ・・・
全く何でもないの。 思い違いよ・・・
(不安の頂点)
ただね・・・ わかるでしょう?・・・ お話を・・したいの!
(官能的かつ感傷的に)
聞いて、あなた、・・
私はあなたに嘘なんかついていないわ・・・
(狂って)
ええ、わかってるわ。 信じてる・・
理解しているわ・・
いいえ、そうではなくて・・・
つまり、私、あなたに嘘をついているのよ・・
ここで、電話で、15分前から、嘘をついているの。
わかっているの、待っていても無駄・・
でも嘘を言ったって、それも無駄・・
それに・・
あなたに嘘をつくのはイヤ・・
嘘なんてつけないし、つきたくない・・
それが、あなたのためであっても・・・・
そんな・・・ 大したことではないのよ、あなた。
ただ、・・・着ているもののことや・・
マルトのところでの食事のこと・・
食べていないわ・・
バラ色のドレスも着ていない・・
ネグリジェの上にマントを羽織っているの。
何故かって、待っていたから・・ あなたからの電話・・
電話機を見つめていたから・・ 立ったり座ったり、
行ったり来たり、狂ってしまいそうだった!
それからコートを羽織って、外に出た・・
タクシーを拾って・・ あなたの家まで行って・・
待っていたの・・
(取り乱して)
その通りね。 待っていたの・・ あてもなく・・
(優しく)
その通りね、ええ、聞いているわ。
(子供のように優しく)
おりこうさんになるわね。
何でも話すわ。 本当よ。・・・
ここで・・・
私、何も食べていない・・
食べる事が出来なかった・・
具合が悪くて・・・
(痛々しく、でもシンプルに)
夕べは、眠ろうと思ってお薬を・・
でも、ふと思った。もっと飲めば、もっと眠れる・・
全部飲んでしまえば、
夢を見る事も、目覚める事も無く、
死んでしまうだろうと・・
12錠飲んだの。 お湯に溶かして。
沢山飲んだわ。
それから夢を見た・・・
現実そのままの夢を・・
目覚めてホッとしたわ。
それが夢だったから、
でも、それも、現実だとわかって、
独りきりだとわかって、
あなたが側に居ないとわかって、
生きていられないと思った。
(優しく)
少しずつ、冷たくなって・・・
心臓の音も聞こえなかった・・・
でも、死もやって来なかった。
それから恐ろしいほど不安になって、
1時間たってマルトに電話をしたの。
(力尽きて)
結局独りで死ぬ勇気がなかったのよ。
(ため息交じりで)
あなた・・・ あなた・・・・
(大袈裟でなく、自然に)
朝四時だった・・
彼女は近くのお医者様と一緒に来た・・
40度以上の熱があって・・
お医者様は、お薬を処方してくださった・・
マルトは、さっきまでここに居てくれたの。
(はっきりと)
彼女には、帰ってくれるように頼んだの。
だって、あなたが電話をくれると言ったから。
だから、邪魔されたくなかったの。

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