火曜日, 3月 28, 2006

プーランク: 人間の声 4

(静かに)
でもね、可哀想なあなた・・
私には、あなただけだったの。
マルトは自立しているわ。
独りで生きている。
(早口で)
もしもし! マダム、お切りになって、
電話中なんです。
もしもし、まあ違うわ、マダム。
止めてください。 盗み聞きは。
私達がおかしいと思われるのなら、
なぜ、かけ直さずに暇を潰していらっしゃるの?
まあ! 怒らないでね・・・
やっとだわ!
(力尽きて)
違うのよ。 下品な捨て台詞を吐いて、
彼女、電話を切ったわ。
驚いたわよね・・ そうね、驚かせたわ。
声でわかるわ。
(とてもはっきりと)
でもね、あなた。あのご婦人が酷すぎるの。
あなたのこと、何も知らないくせに・・
あなたのこと、他の男と
何ら変わりがないと思っているのよ。
いいえ、あなた!
あなたは、別格なのよ。
(とても優しく)
他人事なら、愛し合っていることも、
いがみ合っている事も、
仲違いは仲違い・・
単にそう思うだけ。
解ってもらおうと思っても、
きっと無理なのね。
1番良いのは私のように、
意に介さない事・・
(鈍く叫ぶ)
おお!
・・何でもないわ・・
私、いつもみたいに話をしていて・・
突然現実が蘇ったのよ。
(少しずつ少しずつ興奮して)
あのころ、愛し合っていたわ、
正気を失うほどに・・
ほかの事はどうでも良くなって、
無茶をして、
情熱を確かめ合って、
抱き合って、
そんなことに執着していたわ。
眼差し一つで全てが変わる気がした。
でもこの電話で終わり・・
全て終わりなのね・・・
(長い沈黙)
安心してね。
人は、2度も自殺なんて考えないものよ。
(とても優しく、微笑もうと努めながら)
私、ピストルの買い方も知らないし、
そんなこと、想像も出来ないわよね・・
私の何処に、そんな大それたことをする力が
残っているかしら? あなた?
(とても疲れて、静かに)
何とかして・・
乗り越えるべきね・・
(動揺して、でも、そんなに早くなく)
嘘が役に立つ情況もあるわね・・・
あなたがもし、嘘をつくことで、
この別れの辛さを和らげようとしているなら、
(逆上して)
嘘をついているなんて言っていないわ
もしも、よ。あなたの嘘を私が知っているなら。
そうね、たとえば、あなたは家に居ないのに、
私には居ると言っていて・・
(逆上して)
いいえ! あなた聞いて、
信じているわ・・
そんな、だって・・ あなた、ムキになって・・
(また、少しゆっくりと)
私はただ、もしあなたが、
優しさから嘘を言って、
それを私が知ったとしても、
(とても優しく疲れた様子で)
あなたへの想いは増すだけなのよ。
(早く、逆上して)
もしもし!
どうしましょう!かけ直して!
おねがい! かけ直して!
神様! かけ直してくれますように!
神様! お願いします!
どうか!
(電話が鳴る)
(とても静かに、疲れて)
切れてしまったわ。
(はっきりと)
あなたに言いたかったのは、
あなたの優しい嘘を、
私が知っていたとしても、
(優しく、高ぶって)
あなたへの想いは増すだけだと・・
もちろんよ・・・ バカね・・
愛する人。 素敵なあなた・・
(電話のコードを首に巻きつけて)
(よく響かせて)
わかってるわ・・そろそろおしまいね。
でも、とても怖いわ。
そんな勇気もてない・・
ええ、まるで、向き合って
話をしているようなのに、
突然、私たちの間に、
地下や下水や街が現れるようで・・
私、電話線を首に巻いているの・・
あなたの声を首に巻きつけているの
あなたの声を巻きつけているのよ。
何かの手違いで切れてしまえばいいのに!
ああ、あなた!
想像できるかしら?
ひどく恐ろしいこの考えを・・
そうして別れたとしたら、
私よりもあなたが苦しむ事になるわね・・
(ため息交じりで)
いいえ・・ 違うわ・・
(殆ど喋って)
マルセイユに?
聞いて、あなた。あさっての夜、
マルセイユに行くなら、
(ためらいがちに)
お願い・・ つまり、そうして欲しいの。
いつものホテルには
行かないで欲しいの。
怒ってない?
(自由に、優しく、取り乱して)
何故なら、知らないところなら、何があっても、
気にせずにいられるから・・
・・というより、あまり知らないところなら、
何がおころうとも、
我慢できると思うわ。
解ってくれた? 有難う・・有難う。
いい人ね。 愛してるわ。
(立ち上がり、向きを変え、
電話を手にベッドに向かう)
(暗く、諦めた様子で)
さあ、ほら、「また後で」なんて、
つい口走りそうになる。
確かに。 ああ、楽になったわ。
ずっと気分が良いわ。
(ベッドに横になり、
電話機を抱きしめる)
あなた、愛しい人!
私なら、平気。
あなたから、切って!
ほら! 切って! 早く!
愛しているわ!
愛してる、愛してる、愛してる、
愛して・・
(受話器が床に落ちる)

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