火曜日, 3月 28, 2006

プーランク: 人間の声 4

(静かに)
でもね、可哀想なあなた・・
私には、あなただけだったの。
マルトは自立しているわ。
独りで生きている。
(早口で)
もしもし! マダム、お切りになって、
電話中なんです。
もしもし、まあ違うわ、マダム。
止めてください。 盗み聞きは。
私達がおかしいと思われるのなら、
なぜ、かけ直さずに暇を潰していらっしゃるの?
まあ! 怒らないでね・・・
やっとだわ!
(力尽きて)
違うのよ。 下品な捨て台詞を吐いて、
彼女、電話を切ったわ。
驚いたわよね・・ そうね、驚かせたわ。
声でわかるわ。
(とてもはっきりと)
でもね、あなた。あのご婦人が酷すぎるの。
あなたのこと、何も知らないくせに・・
あなたのこと、他の男と
何ら変わりがないと思っているのよ。
いいえ、あなた!
あなたは、別格なのよ。
(とても優しく)
他人事なら、愛し合っていることも、
いがみ合っている事も、
仲違いは仲違い・・
単にそう思うだけ。
解ってもらおうと思っても、
きっと無理なのね。
1番良いのは私のように、
意に介さない事・・
(鈍く叫ぶ)
おお!
・・何でもないわ・・
私、いつもみたいに話をしていて・・
突然現実が蘇ったのよ。
(少しずつ少しずつ興奮して)
あのころ、愛し合っていたわ、
正気を失うほどに・・
ほかの事はどうでも良くなって、
無茶をして、
情熱を確かめ合って、
抱き合って、
そんなことに執着していたわ。
眼差し一つで全てが変わる気がした。
でもこの電話で終わり・・
全て終わりなのね・・・
(長い沈黙)
安心してね。
人は、2度も自殺なんて考えないものよ。
(とても優しく、微笑もうと努めながら)
私、ピストルの買い方も知らないし、
そんなこと、想像も出来ないわよね・・
私の何処に、そんな大それたことをする力が
残っているかしら? あなた?
(とても疲れて、静かに)
何とかして・・
乗り越えるべきね・・
(動揺して、でも、そんなに早くなく)
嘘が役に立つ情況もあるわね・・・
あなたがもし、嘘をつくことで、
この別れの辛さを和らげようとしているなら、
(逆上して)
嘘をついているなんて言っていないわ
もしも、よ。あなたの嘘を私が知っているなら。
そうね、たとえば、あなたは家に居ないのに、
私には居ると言っていて・・
(逆上して)
いいえ! あなた聞いて、
信じているわ・・
そんな、だって・・ あなた、ムキになって・・
(また、少しゆっくりと)
私はただ、もしあなたが、
優しさから嘘を言って、
それを私が知ったとしても、
(とても優しく疲れた様子で)
あなたへの想いは増すだけなのよ。
(早く、逆上して)
もしもし!
どうしましょう!かけ直して!
おねがい! かけ直して!
神様! かけ直してくれますように!
神様! お願いします!
どうか!
(電話が鳴る)
(とても静かに、疲れて)
切れてしまったわ。
(はっきりと)
あなたに言いたかったのは、
あなたの優しい嘘を、
私が知っていたとしても、
(優しく、高ぶって)
あなたへの想いは増すだけだと・・
もちろんよ・・・ バカね・・
愛する人。 素敵なあなた・・
(電話のコードを首に巻きつけて)
(よく響かせて)
わかってるわ・・そろそろおしまいね。
でも、とても怖いわ。
そんな勇気もてない・・
ええ、まるで、向き合って
話をしているようなのに、
突然、私たちの間に、
地下や下水や街が現れるようで・・
私、電話線を首に巻いているの・・
あなたの声を首に巻きつけているの
あなたの声を巻きつけているのよ。
何かの手違いで切れてしまえばいいのに!
ああ、あなた!
想像できるかしら?
ひどく恐ろしいこの考えを・・
そうして別れたとしたら、
私よりもあなたが苦しむ事になるわね・・
(ため息交じりで)
いいえ・・ 違うわ・・
(殆ど喋って)
マルセイユに?
聞いて、あなた。あさっての夜、
マルセイユに行くなら、
(ためらいがちに)
お願い・・ つまり、そうして欲しいの。
いつものホテルには
行かないで欲しいの。
怒ってない?
(自由に、優しく、取り乱して)
何故なら、知らないところなら、何があっても、
気にせずにいられるから・・
・・というより、あまり知らないところなら、
何がおころうとも、
我慢できると思うわ。
解ってくれた? 有難う・・有難う。
いい人ね。 愛してるわ。
(立ち上がり、向きを変え、
電話を手にベッドに向かう)
(暗く、諦めた様子で)
さあ、ほら、「また後で」なんて、
つい口走りそうになる。
確かに。 ああ、楽になったわ。
ずっと気分が良いわ。
(ベッドに横になり、
電話機を抱きしめる)
あなた、愛しい人!
私なら、平気。
あなたから、切って!
ほら! 切って! 早く!
愛しているわ!
愛してる、愛してる、愛してる、
愛して・・
(受話器が床に落ちる)

プーランク: 人間の声 3

(とても弱弱しく)
大丈夫よ・・
心配しないでね
(長い沈黙)
もしもし!・・・
切れてしまったかと思った・・
(とても静かに)
いい人ね、あなた。
可哀想なあなた・・ 困らせているわね・・
(不安げに)
ええ、お話を・・・ 何でもかまわない!
苦しいの・・ のたうちまわるほど
ただ、あなたが話をしていればいい・・
そうすれば、苦しくないわ。
目を閉じることも出来るのよ・・
(静かに官能的に)
わかるかしら?あなたの隣で、
あなたの胸に身を寄せている時に聞いた声・・
同じように感じるのよ・・
今夜は電話機を通して・・
(音楽が聞こえる)
もしもし!何の音かしら!
音楽が聞こえるわ!
ノックして、止めてもらうべきよ・・
(たたみかけるように叫ぶ)
こんな時間に、レコードをかけるなんて、
近所迷惑よ!
(音楽がやむ、長い沈黙)
(力尽きた様子で)
・・その必要は、無いわ。
どちらにしても、マルトの知り合いの
お医者様が、明日来てくださるし、
(疲労の極地で)
心配しないでね、本当よ。
彼女が様子を伝えるわ。
(取り乱して)
なんですって?
まあ、そんな・・ ずっと良いわ。
あなたからの電話が無かったら、
死んでしまうところよ。
(感情溢れて)
許してね。耐え難いわね、こんな会話・・
あなたは、よく我慢してくれているわ。
でもね・・解って・・苦しくて、苦しくて、
この電話線、これが最後の、
私たちを繋ぐもの・・
(長い沈黙)
一昨日の夜? 眠ったわ。
電話と一緒に、眠りについたの。
いいえ、そうではなくて、
・・・
ベッドの中で・・
(苛立って)
そうね、その通りよ、可笑しなこと、
ベッドの中で電話を抱えているなんて・・
でも、電話だけで、
あなたと繋がっていられるのだから・・
(優しく)
あなたが話しかけてくれるから・・
(とても神経質に、でも最初はこらえながら)
そう、あなたと付き合って5年、
あなたは私の全てだった。
あなたを待って時を過ごし、
帰りが遅いと、死んでしまったのかと思い、
そう思うと、私も死んでしまいそうになった。
あなたが側に居てくれても、結局、
居なくなるのが怖くて死にそうだった。
(ため息混じりに)
今は安心していられるわ。
あなたが、話しかけてくれるから。
(常に静かに、自由に)
そうよ、あなた、眠ったわ・・
何故なら、初めての夜だったから。
(常に静かに)
最初の夜は、眠れるの。
耐えられなくなるのは・・
(恐ろしく不安になって)
2日目の夜。 昨日のことね・・
3日目、そして明日・・
それからずっと・・・・
どうしたらいいのかしら!
(へとへとになって)
それに、眠ったとしても・・その後、
(とても惨めに、ゆっくりと)
夢を見るでしょう。
それから目覚めて、食事をして、
(取り乱して)
起き上がって、支度をして、
そして出かけるのよ・・でも何処へ?

木曜日, 3月 23, 2006

プーランク: 人間の声 2

・・・・
(取り乱して)
まあ、駄目よ、あなた・・
絶対に私を見ないで・・
怖いかって?
いいえ、怖くはないけれど・・
もっと酷いわ
つまり、独りで眠れなくなってしまったの。
ええ、そうね。 わかった、約束するわ。
本当よ。 優しいのね。
(とても荒々しく、とても自由に)
知らないわ!・・・
鏡を見ないようにしているのよ。
洗面の灯りを消したままにしているの。
(苛立って)
昨日、鏡の中の私は、
老婆のようだった・・・
いいえ!・・白髪の老婆よ・・
皺だらけの・・・
優しいわね、あなた、でも・・・・
本当に驚くほどよ、何よりも酷いの・・・
芸術家向きね。
(自由に、優しく、静かに)
私、あなたがこう言ってくれるのが好きだった。
「こっちを向いて! 小さな怒りんぼさん!」
(微笑もうとしながら)
ええ、ムッシュー、嬉しかったのよ。
おばかさんね・・
(急に不安気に)
幸いあなたはぶきっちょで、
私を愛している・・
もし愛していなくて、
器用なだけだったら、
この電話は恐ろしい武器になるでしょう・・
痕跡を残さない武器に・・
音も立てない・・
私が意地悪だって?・・・
もしもし! もしもし、あなた!
(不安の極みで、荒っぽく)
もしもし、マドモアゼル、もしもし、
切れてしまったの・・
(受話器を置く)
もしもし、あなた? いいえ、マドモアゼル、
切れてしまって・・
(取り乱して)
知らないわ!・・・・ つまり
いいえ、待って・・
オトイユ04コンマ7です。
お話中?
もしもし、マドモアゼル? 彼からかしら?
そう・・
(電話を切る)
(電話が鳴る)
もしもし!オトイユ04コンマ7ですか?
もしもし? あなたね? ジョゼフ・・
(息切れして)
私よ。
ムッシューとお話中に、切れてしまったの・・
いらっしゃらない? ・・・・そう・・・
そう・・・ 今夜は戻らない・・・
(平静を装って)
そうだったわ・・・ 私、バカね。
ムッシューはレストランから電話をくれたんだったわ。
切れてしまったので、うっかりかけ直したのよ。
ごめんなさい、ジョゼフ・・ ありがとう。
さようなら、ジョゼフ。
・・・・
(電話が鳴る)
もしもし! ああ! あなたね!・・・
(静かに、陰鬱に)
切れてしまったから・・・
いいえ、違うの、待っていたのよ。
電話が鳴って・・ 出たけれど、 誰も出なくて。
多分・・ もちろん・・
眠たいのね? かけ直してくれて有難う。
良かったわ・・・ いいえ、ここに居るわよ。
何? ごめんなさい。 馬鹿げてるわね。
同じことよ・・・
全く何でもないの。 思い違いよ・・・
(不安の頂点)
ただね・・・ わかるでしょう?・・・ お話を・・したいの!
(官能的かつ感傷的に)
聞いて、あなた、・・
私はあなたに嘘なんかついていないわ・・・
(狂って)
ええ、わかってるわ。 信じてる・・
理解しているわ・・
いいえ、そうではなくて・・・
つまり、私、あなたに嘘をついているのよ・・
ここで、電話で、15分前から、嘘をついているの。
わかっているの、待っていても無駄・・
でも嘘を言ったって、それも無駄・・
それに・・
あなたに嘘をつくのはイヤ・・
嘘なんてつけないし、つきたくない・・
それが、あなたのためであっても・・・・
そんな・・・ 大したことではないのよ、あなた。
ただ、・・・着ているもののことや・・
マルトのところでの食事のこと・・
食べていないわ・・
バラ色のドレスも着ていない・・
ネグリジェの上にマントを羽織っているの。
何故かって、待っていたから・・ あなたからの電話・・
電話機を見つめていたから・・ 立ったり座ったり、
行ったり来たり、狂ってしまいそうだった!
それからコートを羽織って、外に出た・・
タクシーを拾って・・ あなたの家まで行って・・
待っていたの・・
(取り乱して)
その通りね。 待っていたの・・ あてもなく・・
(優しく)
その通りね、ええ、聞いているわ。
(子供のように優しく)
おりこうさんになるわね。
何でも話すわ。 本当よ。・・・
ここで・・・
私、何も食べていない・・
食べる事が出来なかった・・
具合が悪くて・・・
(痛々しく、でもシンプルに)
夕べは、眠ろうと思ってお薬を・・
でも、ふと思った。もっと飲めば、もっと眠れる・・
全部飲んでしまえば、
夢を見る事も、目覚める事も無く、
死んでしまうだろうと・・
12錠飲んだの。 お湯に溶かして。
沢山飲んだわ。
それから夢を見た・・・
現実そのままの夢を・・
目覚めてホッとしたわ。
それが夢だったから、
でも、それも、現実だとわかって、
独りきりだとわかって、
あなたが側に居ないとわかって、
生きていられないと思った。
(優しく)
少しずつ、冷たくなって・・・
心臓の音も聞こえなかった・・・
でも、死もやって来なかった。
それから恐ろしいほど不安になって、
1時間たってマルトに電話をしたの。
(力尽きて)
結局独りで死ぬ勇気がなかったのよ。
(ため息交じりで)
あなた・・・ あなた・・・・
(大袈裟でなく、自然に)
朝四時だった・・
彼女は近くのお医者様と一緒に来た・・
40度以上の熱があって・・
お医者様は、お薬を処方してくださった・・
マルトは、さっきまでここに居てくれたの。
(はっきりと)
彼女には、帰ってくれるように頼んだの。
だって、あなたが電話をくれると言ったから。
だから、邪魔されたくなかったの。

水曜日, 3月 22, 2006

プーランク: 人間の声 1

(動揺して)
もしもし! 違いますわ マダム
混線しているんです。
お切りになって。
(そっけなく)
あなたも私も加入者・・
いいえ、マダム、あなたもお切りになって。
もしもし、マドモアゼル
いいえ、違います。
シュミット先生の家ではありません。
08です。07ではありません! もしもし・・
おかしな話・・・
そんなこと言われても、わからないわ。
もしもし! まあ、マダム、
私にどうしろと?
何? 私がいけないと?
とんでもないわ。
もしもし、マドモアゼル、
どうかマダムに電話を切るようにおっしゃって。
(電話を切る)
(電話が鳴る)
もしもし、・・・あなた?
ええ、元気よ。
電話が混線していて、大変だったのよ。
ええ・・・ そうよ・・・ いいえ・・・
丁度良かったわ。
10分前に戻ってきたばかりよ。
それまでに電話をくれたかしら?
ああ! 違うのよ。
外で食事をしていて・・ マルトのところよ。
今、11時15分ね。 あなたはもう家?
だったら、振り子時計を見たら?
そうだと思った。
ええ、あなた・・・ 昨日の夜?
昨日はすぐに横になって・・
でも寝付けなかったから、
お薬を・・・
いいえ、一錠だけよ、9時だったわ
少し頭痛がして、
でも、元気を出そうと・・・
マルトが来たわ。一緒にお昼を食べて、
それからお買い物を・・
その後帰ってきて・・
それから・・・  何? ・・・ 大丈夫よ。
乗り越えようと頑張っているの。
それから?・・
それから着替えをして、マルトが迎えに来て、
彼女のところから帰ってきたところよ・・・
彼女は頼りになる人よ。
見かけとは違うわ。
あなたの言うとおりね。 いつも。
・・・バラ色のドレスに、黒い帽子よ。
そう、まだ帽子をかぶったままなの。
あなたは? もう家かしら?
ずっと家に居たのかしら?
何の訴訟? ああ、そうね。
もしもし! あなた、もし切れたら、
すぐに又かけ直してね。
もしもし!・・ いいえ、ここに居るわ。
あれね? あなたと私の手紙。
いつでもいいわ。取りによこして。
少し辛いけど・・ 解っているわ・
(とても激しく)
ああ! あなた、謝ったりしないで!
当然のことよ。
バカなのは、私よ。
優しいのね。(息まじりで)優しい・・・
私だって全然思っても見なかった。
こんなに気丈で居られるなんて。
(とても早口で)
お芝居? 何の? もしもし、 誰が?
私がお芝居をしているって?
解るはずよ、私にはそんなこと出来ない。
(熱っぽく、荒々しく)
違うわ! いいえ!・・・
(急に弱まって)
落ち着いているわ。・・ わかるでしょう?
(自由に、極端にはっきりと)
解るはずよ。
(静かに、優しく)
何も隠してなんかいないわ。
(断固としてでも特に責めたてずに)
いいえ、勇気を持とうと決めたの、そうするわ。
当然の報いなのよ・・
私、何も見えずに、
狂ったような幸せを望んだわ・・・
(恐怖に怯えて)
あなた、聞いて、もしもし、ねえ、
(突然ゆっくりと陰鬱に)
話をさせて頂戴。
みんな私がいけないの。 そうよ。
思い出して、ヴェルサイユでの日曜日。
その時の電報の事。 その時に、
行きたいといったのは私。
あなたに何も言わせなかった。
そんなことどうでもいいと言ったのも私。
(とても荒々しく、興奮して)
いいえ、違うわ、それは間違いよ。
私よ、私が最初に電話したのは、
火曜日よ。確かに・・
27日の火曜日。
(とても静かに)
わかるでしょう? 私、日付のことは良く覚えているの。
(とても静かに、無関心に)
お母様が? なぜ?
本当に、お気になさる事はないわ
まだ、わからない。 そうね、多分・・
ああ!だめね、すぐにはきっと無理。
あなたは?
(不安げにささやくように)
明日? そんなに早くなんて思わなかった・・
それなら・・・ 待って・・
とても簡単よ。
(息切れしながら)
明日の朝、袋を管理人のところに・・
ジョゼフを取りに遣してくれれば・・・
(とても静かに優しく)
まあ! 私なら、わかるわね。
ここに居るかもしれないし、
田舎で何日か過ごすのもいいわ。
マルトのところでも。
ええ、あなた。 そうよ、あなた。
(慌てて)
もしもし! これならどう?・・・
はっきりと喋っているのに。
(極端にはっきりと)
どう、聞こえるかしら?
聞こえているかしら?
(とても静かに優しく)
おかしいわね・・ 私には
あなたが部屋の中に居るみたいに、
良く聞こえるのに。
もしもし、もしもし!
何てこと! 今度は私のほうが聞こえにくいわ。
(とても静かに)
そんなことは無いけど、遠いわ、とても・・・
あなたは聞こえているの?
かわりばんこね。
(くつろいで)
いいえ、大丈夫、・・さっきよりも聞こえるわ。
でも、あなたの電話、響くわね。
あなたの電話機ではないみたい。
(優しくあまえて)
わかる? あなたが見えるの・・・
何のスカーフかって? ・・・赤よ。
シャツの袖を捲り上げて・・・
左手? 受話器を持っているわ。
右手? 万年筆ね・・
あなたはいたずら書きを・・・ハートや
星の形を書いているのね・・・
(おどけて)
ああ! 笑った!
私、耳に目がついているのよ。

火曜日, 3月 21, 2006

プーランク:人間の声 序文

音楽解釈のためのメモ
1.人間の声、唯一つの登場人物は、 
 若くエレガントな女性でなくてはならない。
2.この作品の中でとても重要なのは、 
 フェルマータの長さをどう演ずるかということだ。 
 この点について、指揮者は歌い手と 
 あらかじめ綿密に打ち合わせする事。
3.伴奏の無い歌の部分は、演出により 自由に歌うことが出来る。 
 恐怖から突然静寂へ、あるいは逆の表現など。
4.作品全体が、官能的なオーケストレーションに 浸りきっていなくてはならない。    
  Fプーランク

人間の声
薄暗く、蒼白く照らされた女の部屋。
下手には乱れたベッド。 
上手には白い洗面の部屋の扉が半開きになり、
そこから明るい光が漏れている。
センターには低い椅子と小さな机。
机の上では、ランプが残酷な光で電話を照らしている。
幕は殺しのあったようなこの部屋をむき出しにする。
ベッドの手前の床。 ロングネグリジェを着た女が
、独り、死んだように横たわっている。
沈黙。
女は身を起こし、姿勢を替えて、またジッとしている。
とうとう女は決心をし、起き上がり、ベッドの上のコートを手にする。
それから、電話の前でしばし立ち止まった後に、出口へと向かう。
女が扉に手をかけたとき、電話のベルが鳴る。
女は電話に向かって駆け寄る。
持っていたコートは邪魔になり、女はコートを蹴飛ばす。
女は受話器を取る。
それから彼女は立ったまま、座ったまま、
あるときは後ろ向きに、または前を向いて、またある時は横向きに、
肘掛け椅子の後ろに跪いて、執拗に頭をもたせかけたりしながら、
最後、うつぶせにベッドに倒れこむまで、
電話のコードを部屋中で引きずりながら、大股で歩く。
最後には、女の頭はガックリと傾き、
そして受話器は石ころのように、
女の手から転がり落ちる。
  ジャン・コクトー

金曜日, 3月 17, 2006

ラヴェル: 花のマント

花盛りになった庭は一面のバラ色。
何て美しいバラ色! 
バラ色の庭に唯一つの白い百合は、
ばら色に染まった庭を、優雅に愛らしく
そして純粋にする。
そして花たちは 百合のために
バラ色のマントになって、
その美しさを引き立たせるのだ。

花のマント
私の庭の全ての花はバラ色に染まる。
美しいバラ色に・・
桜草は最初の花びらを開き、
それからチューリップやヒヤシンスが花開く。
美しい瞳よ 美しいバラ色よ。
ありとあらゆる花たちはバラ色になる
春も、夏も!
美しいバラ色!
牡丹の花、クラジオラス、ゼラニウムも、
バラ色に花開く
ただ。。 全てのバラ色のなかで引き立つもの
それは百合、白く真っ直ぐにたたずむ百合。
百合は花達の真ん中を飾る。
さめざめとしたバラ色、陶然とした香りの中、
優しく愛撫するように・・
全ては優雅で愛らしく、そして純粋になる。
花たちはバラ色のマントとなり、
百合を引き立てるのだ。

ドビュッシー: 春が来た

ポール・ブルジェ作詞 
軽やかな春のお小姓が、
元気良く春を告げて駆け回る。
ナイチンゲールと鶫が春の歌を歌い、
それに耳を傾けるように
森の中で眠っていた花たちが芽吹いていく。

春が来た
ほら、春だ。 
軽やかな四月の申し子は、
白い薔薇の刺繍を施した、
緑の衣を羽織る美しいお小姓
機敏で元気良く、腰に手を当てて、
長い亡命生活から舞い戻ってきた
王子のように喝采を受ける。
緑に染まった茂みの枝は、こんもりと茂り、
その道を狂ったように踊りながら通り抜ける。
左の肩にはナイチンゲール
黒鶫は、右の肩に止まったまま
それから森の苔の下で眠っていた花たちも、
微かで優しい影を漂わせた瞳を開き、
小さな足で立ち上がって
2羽の鳥の鳴き声と歌声に耳を傾ける
黒鶫が口笛を吹けば、ナイチンゲールは歌う。
黒鶫は愛されぬものたちをからかっている。
そして恋人達のために、
うんざりとした者にも、楽しむ者にも、
ナイチンゲールは涙を誘う歌を歌い上げる。

木曜日, 3月 16, 2006

ビゼー:てんとうむし

ヴィクトル・ユゴー作詞
赤いてんとうむしと、彼女の魅力的な唇
16歳の少年は、てんとうむしを採り、
口づけを逃してしまう。
空からてんとう虫が一言
「バカだなあ!」
きっと僕は口づけをするべきだったんだ!

てんとうむし
彼女は僕に言った。
何かくすぐったいわ・・
そして僕の目に入ったもの。
彼女の真っ白なうなじと、
その上にうごめく、赤い小さな虫
どうしたらよかったの?
そうだなあ、でも、
良かったのか、悪かったのか・・
16歳の僕。
まだ世間知らず。
するべきことは・・・ そう!
やっぱり彼女の口づけを誘う唇に気付く事
うなじにとまった虫なんかよりも・・
その虫は貝殻のよう形をしていて、
バラ色の背中に黒い斑点の模様があった。
うぐいすたちは、ことの成り行きを
木々の間から見守っている。
そう、見守っていたのに・・
彼女の唇は瑞々しくそこにあった。
彼女の唇はすぐそこにあったのに。
ああ! なんてことだ!
僕はその美しさに身をかがめたと思ったら、・・
ついついそのてんとう虫を捕まえてしまったのさ。
そう、てんとう虫を捕まえて・・
そして口づけは飛んでいってしまった・・
「若者よ!覚えておきなさい。 」
青い空の向こうからてんとう虫は言う。
「生けるものは、神のもの
 でも、愚かさは人間のものだな。」
青い空の向こうからてんとう虫がそう言った。
なんてことだ! どうすべきだったかは・・
そうだ! ああ! 
そうすべきだった・・

ショーソン : 蝶々

ゴティエ作詞 
美しく自由に舞う蝶々を見て、
もし、同じような翼があったら・・と思う
何も迷わずにあの人の唇へ飛んで行って・・
そこで死んでしまいたい。 

蝶々
雪のように真っ白な蝶々たち
群れをなして海を越えて行く
白く美しい蝶々たちよ
果たして私はいつになったら、
空の青い道をたどる事が出来るだろうか?
あなたは知っているだろうか?
美しきもののなかでも、美しい人よ
黒い瞳の舞姫よ
もし私に蝶々のような羽が合ったなら・・
どうでしょう? お分かりになりますか?
私は何処へ行くのでしょうか?
薔薇に口づけをすることもせず、
谷や森を通り抜け、
半ば閉ざされた貴女の唇へ・・
私の心の花。 貴女の許へ飛んで行き、
そして死んでしまうだろう。

水曜日, 3月 15, 2006

フォーレ: 蝶と花

ヴィクトル・ユゴー作詞
フォーレの10代のころの作品
似ているようで全く異なる蝶と花の恋物語。

蝶と花
可哀想な花は蝶に向かって言った。
「行かないで」
そう、私たちの運命はこんなに違う。
私はここに留まり、あなたは飛んで行ってしまう。
それでも私たちは愛し合い、共に生きている。
そして私たちは似ている。
「花が二つ並んでいるみたい」
でも風はあなたを運び去り、地は私を縛り付ける
むごい運命!
せめて私のため息であなたを大空に羽ばたかせたい。
でも、駄目よ! あなたは遠くに行ってしまう。
数え切れないほどの花々のなかへ、飛んで行ってしまった。
そして私は独りここに留まり、
足元の影が映り行くのを眺めるだけ
あなたは飛んで行き、それから戻ってくる。
それからまた去っていく、華やかさをもとめて・・
そして夜明けに泣き明かす私を見つけるでしょう
ああ!私たちの愛が誠実な日々を迎えられるよう、神よ、
あの人に私のような根を・・ あるいは
私にあの人のような翼を下さい。